ジョジョ第4部 ダイヤモンドは砕けない編
基本情報 作者:荒木飛呂彦 掲載誌:週刊少年ジャンプ 発表期間:1992年20号〜1995年51号(全174話) 単行本:全19巻(29 - 47巻) TVアニメ:2016年4月〜12月まで放映(全39話) 実写映画:『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』2017年8月4日公開(監督:三池崇史、主演:山﨑賢人) 舞台は日本の地方都市 『ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない』(以下、4部)は、まず物語の舞台となる場所からして異色。1部はイギリス、2部はアメリカ、3部はエジプトと外国が舞台であり、敵も吸血鬼やら究極生命体やらどこか神話的な雰囲気が強かった。それが一転、4部の舞台はM県S市杜王町という日本の地方都市。ちなみに、モデルになったのは作者である荒木飛呂彦氏の生まれ故郷である宮城県仙台市である。杜王町はS市のベッドタウンとして急速に発展した町で、海岸沿いには別荘エリアもあり行楽シーズンには各地から観光客が大勢やってくる。一見すると穏やかで平和な町だが全国平均から見ても異様なほどの行方不明者を毎年出しているのだが、その陰にいるのがひとりの殺人鬼、4部のラスボスである吉良吉影がいるのである。 作者によると4部のテーマは「町をつくる」ことだったそうで、ジョジョの世界を日常にまで引き下ろそうという試みから日本の地方都市、それも自分になじみのある故郷をモデルにしたそう。4部を端的に表現するなら「日常の隣に潜む恐怖」となるだろう。物語が1999年というのも重要な役割を果たしており、世紀末に対するモヤモヤとした不安感が4部全体の奇妙な空気を生み出している。余談だが、作者曰く4部は「こち亀」だそうで、杜王町を舞台にした日常ストーリーはいくらでも描けるのだとか(読みたかった……)。 4部の”ジョジョ”はヤンキー高校生 ”ジョジョ”といえば各部の主人公の愛称だが、4部の”ジョジョ”は高校1年生の不良男子・東方仗助。仗助のトレードマークは時代錯誤なリーゼントであり、ひとたび髪型をけなされようものならプッツンとブチ切れるちょっと困った性格の持ち主だ。この髪型は幼い頃に自分を助けてくれたリーゼントの少年をマネしたものであり、仗助にとって信念のシンボルともいえる。同じ高校生ジョジョでも3部の主人公・空条承太郎が物静かで「やれやれ」な感じだったのに対し、仗助は普段は穏やかだが髪型をけなされればブチ切れ、ブランドものが好きなのに常に金欠、親友・虹村億泰とつるんではロクでもないことをするという、ある意味”等身大”の高校生である。そんな仗助のスタンド「クレイジー・ダイヤモンド」は作者が「究極の優しさを持ったスタンド」というように、触れたものを再生する能力を持つ(ただし自身は治せない)。 なお、母親と祖父と3人暮らしをする仗助だが、実は2部の主人公・ジョセフ・ジョースターの隠し子であり、作中で対面を果たす。 岸辺露伴を筆頭に個性的な登場人物たち 漫画家・岸辺露伴といえば、近年では『岸辺露伴は動かない』などのスピンオフ作品や、グッチとコラボするなどジョジョ世界を飛び出して活躍する超有名キャラクター。もはや「4部は読んだことのないけど岸辺露伴は知っている」という人もいるレベルの知名度を誇る。そんな露伴が登場するのが4部であり、かの有名な「だが断る」のセリフも噴上裕也(スタンド:ハイウェイ・スター)との戦いのなかで発せられたものである。 作者・荒木飛呂彦の分身といわれることもある岸辺露伴だが、作者によると「漫画のためならいろんなことを犠牲にできる露伴はある種”憧れ”であり自分とは全然似てない」のだとか。さらに漫画家を重要キャラクターとして登場させたのは、日常をよりリアルに描くために自分の最もよく知る職業のキャラを出しリアリティを追求するためなのだそう。 岸辺露伴といえば広瀬康一。広瀬康一は4部の語り部的存在で、もう一人の主人公ともいえる。なにせ作中で最も劇的な成長を見せ、卵から孵化したスタンドであるエコーズは3変化を遂げ、山岸由花子とのラブストーリーもあり、かつて敵だった小林玉美や間田敏和らからも慕われ、偏屈者の岸辺露伴から「親友」と呼ばれ、あの空条承太郎すら一目を置くという特別待遇っぷり。5部への橋渡し役も彼が担った。 ほかにも主人公・仗助の相棒である虹村億泰。最初は仗助の前に敵として登場した億泰だがのち仗助の親友となり、一緒にバカをやったり敵スタンドと戦ったり殺人鬼の正体探しに奔走した。吉良吉影との最終戦では死の淵に立たされたが奇跡的に復活し、窮地に陥っていた仗助を救った。見方だろうと容赦なく死亡するジョジョ世界において億泰の生還は異例ともいえる。 他にも億泰の兄で「弓と矢」により杜王町にたくさんのスタンド使いを生み出した虹村形兆、広瀬康一を異常に愛する山岸由花子、レストラン「トラサルディー」のシェフ・トニオさん、作者もお気に入りという「重ちー」こと矢安宮重清、自称「宇宙人」のミキタカ、ナルシストの噴上裕也、町の守り神ともいえる幽霊の杉本鈴美、スタンドを持たない普通の小学生ながらとんでもない根性と覚悟を持った川尻早人などなど個性的で愛すべき登場人物が数多く登場する。 ラスボスは最凶の殺人鬼・吉良吉影 4部のラスボスは表向きは平凡なサラリーマンだが、その正体は生まれながらの殺人衝動を抑えきれず殺人を繰り返す凶悪な殺人鬼・吉良吉影。子どもの頃に見たモナリザの肖像画の手の美しさに魅了されて以降、美しい女性の手に異常な執着を持ち、殺害した女性の手首だけを持ち去り彼女として扱う完全な異常者である。杜王町の人気パン屋・サンジェルマンで手首とともに昼食のパンを選び、あろうことかサンドイッチの包装紙を破いてしまった”彼女”の指を舐めるシーンは読者を戦慄させた。植物のように静かに暮らしたいという信条から余計な争いは避ける吉良だが、いざ自身の正体が暴かれそうになると邪魔者は容赦なく殺害し、自分と背格好が似た「川尻浩作」の人生を乗っ取る身勝手な人物である。 「同じ人間なのになぜこれほど殺人を侵さなくてはいけないのか」という作者の疑問を突き詰めた結果として生まれたのが吉良吉影だそうで、「母親から子どもの頃に虐待を受け、それを見て見ぬ振りしていた父親(写真の親父)はその後ろめたさから息子である吉影の殺人を隠す手伝いをした」という裏設定があったらしい。 スタンドは猫のような顔を持つ「キラークイーン」。触れたものはなんでも爆弾に帰ることができる能力だが、この「第一の爆弾」のほか、左手の甲に装備された「第二の爆弾」シアーハートアタック、さらに物語終盤では仗助たちに追い詰められた状況のなか「矢」に刺され「第三の爆弾」バイツァ・ダストという時間をぶっ飛ばす能力まで手に入れた。3部のラスボスであるDIOを超える強敵にしようとした結果、作者本人さえ「こいつ強すぎる……どうやったら倒せるんだ?」という先の展開が読めない状況になったらしい。そんななかで生まれた最終決戦はまさに二転三転の緊張感あふれるアツい展開で、満身創痍の東方仗助と吉良吉影が対峙するシーンは屈指の名シーンとなっている。また、最終的に吉良吉影を倒すのが主人公の仗助ではなく、虹村億泰、広瀬康一、空条承太郎、さらには吉良が最初に手にかけ幽霊となった杉本鈴美らみんなの力によるものというのが印象深い。杜王町で長らく多くの命を奪った殺人鬼が町を愛する者たちの手によって裁かれたともいえる。 歴代シリーズのなかでも人気の高い4部 日常系ジョジョともいわれる4部を愛するファンは多い。以下、アマゾンのレビューからいくつかファンのアツい想いを紹介する。 ・とにかく登場人物一人一人が魅力的 ・主人公の「なおす」という能力の応用性が素晴らしいし、ラスボスの「完全に破壊する」という対極の能力とのスタンドバトルがアツい ・いくつもの「親子」の物語が面白い ・スタンド能力が難解すぎずわかりやすい ・スタンドバトルに終始するのではなく、サスペンス的な要素、ラブコメ、ギャンブル、グルメなど多彩なストーリー展開が魅力的 ・他の部に比べ、雰囲気や登場人物に親近感がわく ・スタンド能力にひねりが加わり、スリリングで知略に富んだスタンドバトルが展開され面白い ・とにかく楽しくて怖いくてかっこよくてたまらない ・吉良吉影がラスボスにありがちな「世界を支配する」とかの野望を一切持たず、「ただ平穏にこの町で暮らしたい」と願っているのが斬新すぎる ・戦闘シーンと日常シーンのバランスが良く気楽に楽しめる
全49戦